脱力した膝に、思わずへたりこみそうになるのを必死で支え。
は目の前にたにたと笑んだ銀時と、その手にした一枚の紙切れを交互に見つめた。
ハンコを簡単に押すんじゃありません
「・・・あのね銀ちゃん。私ももう二十歳過ぎなんだよ。いい大人なんだよ。」
「そうだな、お前が十代だったら俺ァ犯罪者になるもんな」
「今正に犯罪者目指してまっしぐらだけどねコレ。その紙は何でしょう?」
「だからアレだ、荷物受け取りの紙。だからハンコ。ちなみにサイン不可だから」
「明らかに違うよね?騙してるよね?幾ら私がちょっと幼・・・若く見えるからってコレが何かもわからないと思ってる?」
「何言ってんだ。コレはまごう事なき受け取りの紙じゃねーか。」
言いながら悪びれもせずに銀時がひらとかざしたそれは、受け取りの紙にしては大分大きめな四つ折サイズ。
は引き攣りそうになる眉間を抑え、ふ、と小さく息を吐いた。
「そっか。じゃあ私の記憶が間違えてるんだ。私それ婚姻届かと思ってたよ。」
「相変わらずバッカだなー。大丈夫、銀さんちょっとお馬鹿なお前も愛してるから。じゃあホレハンコ。」
「お前ェはよォ!!」
スパン、という乾いた音と共に、の右手に握り締めたスリッパが銀時を閉口させた。
正座で向かい合うと銀時の間には、大人しく机に広げられた婚姻届。
廊下からの隙間風に切なく揺れるそれを見つめながら、銀時はほんの少し哀しげな目をして見せた。
「毎日毎日諦めない精神は素敵だと思うけどね。銀ちゃん、こういうことで人を騙すのはもう犯罪だよ。
ハンコは押さないって言ってるでしょ?」
「いやだってホラ・・・もう一緒になって四年だろ?苗字二つもあんの邪魔じゃね?」
「いやいやいや。どういう理屈か理解しがたいよそれ。長年親しんだ自分の苗字だからね。邪魔とかないからね。」
「じゃあ何か、は銀さんと夫婦になりたくないってんですか。」
「ていうか・・・うん、今は結婚する気ないね」
の口からさらりと放たれた核の如き発言に、銀時はその死んだ魚と称される目を微かに見開き言葉を失った。
はくはくと言葉を捜すかのように口を開いたままの銀時に、は些かいぶかしげな目で茶をすする。
「私今そんなヒマないの知ってるくせに・・・銀ちゃん?」
「そうか・・・うん、いやアレだ・・・うん」
「銀時さーん」
「いやいやいや、俺ァ大丈夫。うん大丈夫。銀さん負けない。」
「もしもーし。頭入ってますかァー?」
言いながらこんこん、と額をノックしてくるに目もくれず、銀時はふらりと正座していたソファから腰を上げた。
ス、と静かに開け放たれた襖からの風に、四つ折に曲がった薄っぺらい婚姻届が頼りなさげに机から滑り落ち、
それはまるで今正に玄関前の階段から滑り落ちた銀時の背中のようだった。
がさがさと大きく膨らんだ買い物袋を両手に帰ってきた新八に、は上げかけた湯飲みを置き「お帰り」、と笑んだ。
寒風に染まった頬が可愛い、なんてどこか変質者くさい。
「ね、帰りにでも銀ちゃん見なかった?」
「え?いないんですか?」
手際よく冷蔵庫へ消えていく食材をぼんやりと眺めながら、は小さく頷いた。
ふと時計を見れば、銀時がふらふらと出て行ってから優に30分は過ぎている。
「今は結婚する気がないって言ったらふらふら行っちゃった」
新八はハハ、と小さく笑い、ぱたんと冷蔵庫を閉め、から湯飲みを受け取りながらうーん、と目線を天上に上げる。
「きっとアレですよ。自分と結婚する気がないんだと思い込んでどっかでヤケ酒してますよ」
「やっぱそう思う?・・・んっとに人の話聞かないんだから・・・」
仕方ない、とソファに沈んでいた腰を上げ『ちょっと出て来るね』というに、新八は銀時そっくりの顔でにた、と笑んだ。
「あー。やっぱココかぁー」
突如背後から投げかけられた心底呆れ返った声に、銀時と長谷川は同時に顔を向けた。
最も、ぐったりとした銀時は既に目も開いていない。
「おぅちゃん。一緒にやるかい」
「おっさんに混じっては嫌だなぁ。ごめんね、ウチのが迷惑かけちゃったでしょ」
「おっさんバカにしちゃいけねぇよ。何かあったのか?出会い頭に引きずられてコレよ」
「何かあったと言うか・・・銀ちゃんの暴走って言うか・・・」
はコレ、と長谷川の指差す先の銀時の潰れっぷりに、溜息混じりに額を押さえた。
やっぱな、と笑う長谷川の呟きに、店の店主までもが笑う。
一体どんな愚痴り具合を見せたのか。
「まったく人の話を聞かないんだから・・・ごめんねマダオさん。」
「いやマダオ名前じゃないってのに。何で広がってんだコレ。誰が普及してんだ?」
は小さく笑いながら、よいしょ、と銀時の腕を肩に回し、引きずりながら立ち上がる。
「オイオイオイ大丈夫か?おっさん背負うからいいよ。」
言いながらひょいと銀時を攫う長谷川に、はにっこりと笑み『ありがとう』、とその後に続く。
万事屋を出た頃はまだ薄紫だった空は、既に深い紺色に塗りつぶされていた。
「何か、アレだな。あんたら見てるともう夫婦みたいだな」
ハハ、と軽く呟かれた言葉に、はほんの少し色づいた頬ではにかんだように笑み作る。
「・・・そうかな?」
「何、照れてんの?いいねー若いって」
「・・・早く、そうなったらいいなって」
あーぁ、といかにもやるせない風で銀時を背負い直した長谷川の呟きが、昼より鋭い夜風に溶け消えた。
寝かせた布団の中背を向ける銀時に、は静かに息をつき枕もとに腰をおろした。
ふて腐れたように寝たフリを決め込んだ、ふわふわとした頭。
「・・・銀ちゃん。起きてるんでしょ」
「起きてませぇーん。深い眠りについてまァーす」
ろれつの回らない酔った舌でてろてろと返す銀時に、はむっとしながらも先を続ける。
「あのね。一週間後に私試験あるの知ってるでしょ。国家試験。だから今は暇が無いって言っただけで・・・」
言葉の返らないまま、壁に離しているような気分でそれでも言葉は切らない。
聞いているのかいないのか、ほんの少し身じろぎした銀時の肩をぼんやりと眺めていた。
「・・・私の、夢だったのも知ってるでしょ?誰も銀ちゃんと一緒になりたくないなんて言ってないよ」
「・・・分かってるよ」
「分かってないでしょ。分かってたら・・・―――――――」
「――――― 分かってるけどよォ・・・ しょうがねーだろ・・・好きなんだから 」
そう呟いたきり、銀時はもぞもぞと布団を抱き込み何も言う気配は無い。
どうしたものかと布団を引っ張ってみるものの、びくともしない。
何だか終いにはバカにされているような気分で、はがば、と寝たままの銀時に圧し掛かった。
「っゎ、ちょ・・・さん?何ですか、何コレ?夜這い?俺襲われるの?イニシアチブは?」
「いつまでもズルズルふて腐れてみっともない!私だって銀ちゃん好きだっつーの!苗字二つもいらないっつーの!!」
ぼふ、と枕もとに手を付き迫るに、銀時は呆気と言葉を失う。
だからさ、と小さな呟きが、かろうじて銀時の耳を振るわせた。
「・・・もうちょっと、だけ・・・待ってよ」
胸元に顔を埋めくぐもった呟きに、銀時はかりかりと首元を掻き自分の上でうずくまったを引っ張り起す。
何かと息を詰めたの視界がぐるりと混ざり、しっかりとそれが定まった時、目の前にあるのは銀時と布団だったはずの天井。
「え?あ?」
「銀さんちょっと酔い吹っ飛んじゃった」
「ついでに頭も吹っ飛んだ?」
「理性が吹っ飛んだ」
「軽くない?理性軽くない?ちょっと理性太らせたほうが良いよ。ていうかだってホラあのアレ、私勉強しなきゃ。ね。」
ぐいと押し戻そうとするの腕を易々と掴み捕らえ、にたりと笑んだ銀時の顔に良い予感はしない。
「銀さん待ってる間に退屈で死にそうだからよォ。楽しませてくれや」
「え、ちょ、落ちる。私試験落ちる。どうすんのコレ」
「たまには息抜き必要だって。リフレッシュリフレッシュ」
「アンタは毎日フレッシュしすぎだ!」
わにゃわにゃと言い返すも、銀時は急に止まれない。
いつもの事ながら、こういう時だけ生き生きとした銀時に今日も今日とて丸め込まれていった。
響いたチャイムに席を立ったが、にたにたとしまりの無い顔で居間の引き戸を空けた。
手にしている開封済みの封筒はどうやら宛てらしい。
「ちゃん、何その顔。何があったの?歳の通りに見てもらえた?」
「うっさいよパー。そうそう銀ちゃん、荷物来てたから受け取りのハンコ頂戴」
「荷物ぅ?何の」
疑わしげに呟きつつ伸ばした手の先には、が握る四つ折の薄い紙。
色は茶色。
「・・・さん?」
「サイン不可だからね」
「どういう事?」
困惑したように、しかしどこかニヤついた口元で尋ねる銀時に、はにっこりと笑む。
「銀ちゃんは、私が養ってあげるからね」
珍しく頬を色付かせ、言葉を捜すように口を開いたままの銀時。
机に並べられた婚姻届と合格通知が、窓からの風に微かに揺れた。
駄文大炸裂!
スミマセン、ヒロインをちょっと伊純さんに似せようと思ったらスゴイ失礼な事言ってます(歳の通りとか)
先日伊純さん家の絵チャにお邪魔していた時に、私が悶えた日記絵を頂けるというので
そのお礼にでもなればとリクを頂きました。
その前の会話から取ってリクは「結婚詐欺で」と承ったのですが(何の会話だよ)・・・。
押されてない!押してない!!ギャグじゃない!!
ど、どうしましょうリクにかすりもしてない気がします・・・orz無能
書き直し指令いつでもお待ちしておりますので・・・!!
この程度ではいつもゴチソウサマなお礼を払いきれないと思いますので
いつでもリクお待ちしております(笑)
では、本当に有難う御座いました・・・!
伊純さんのみのお持ち帰りでお願いします。(誰もいらんて)